ヤブツバキ

ヤブツバキ(ツバキ科)[藪椿]

名は、栽培されるツバキに対して自生するものを区別する意味で「やぶ」を冠したもの。ツバキの語源としては、「厚葉木(あつはき)」または「艶葉木(つやはき)」の転との説などがある。「椿」は国字で漢名は山茶。中国では椿はセンダン科のチャンチンを指す。牧野富太郎も「中国の椿と日本のツバキの椿が同字であると思ったら、それは大きな見当違いである。これはたとえその字体は全く同じでも、もとより同字ではない。(中略)ツバキは春盛んに花が咲くので、それで木扁に春を書いた椿の字を古人がつくったもんだ。」と書いている(植物一日一題)。
北村四郎博士は「元来野生のものがツバキなのだから、ヤブツバキという呼び名は不必要」とし、単にツバキとよんでいる。ヤマツバキともいう。

主として海岸近くの照葉樹林内に生えるが山地にも生え、高さ5-6m、大きなものは10-15mになる常緑小高木~高木。
よく分枝して茂る。樹皮は灰白色で滑らか、ときに微細なちりめん状の不規則なしわがある。小枝は淡褐色。
葉は厚くて硬い革質で互生し、表面は濃緑色で強い光沢があり裏面は淡緑色、両面無毛。長さ5-10cm、幅3-6cmの長楕円形~卵状長楕円形で縁に細かい鋸歯があり、先は短く突き出てとがり基部は広いくさび形~円形。主脈は表面でへこみ、日に透かして見ても側脈はほぼ見えない。葉柄は長さ1-1.8cmで無毛。
枝先に直径5-7cmの赤色の両性花をふつう1個ずつ、ときに2-3個横~やや下向きにつける。花弁は5個あり下部で合着、長さ3-5cmで質は厚く先端がへこみ、平開しない。雄しべは多数あり、花糸の下半部は合着して筒状になり、基部は花弁と合着する。花糸は白色で葯は黄色。子房は上位、無毛で光沢があり、花柱は3裂する。花筒の下部に多量の蜜がたまる。萼片は5個、黒褐色で外面に絹状の伏毛が密生する。花柄は長さ約5mm。花の盛りが過ぎると花ごと落ちる。
果実は直径3-5cmの球形の蒴果。果皮は厚く、緑色のまま熟して3個に裂開する。種子は淡黒色で2-3個あり長さ2-2.5cm。

大正11年(1922年)に「ツバキ自生北限地帯」として秋田県男鹿市能登山、青森県平内町椿山が2県同時に天然記念物に指定されている。これはどういうことなのか。北限が2つあるというのは何なのか。北という意味では青森県であろうし、男鹿市と平内町を結ぶ海岸線にも自生ツバキは点在する。2地点を結ぶ海岸線一帯を指定したものかとも考えたが、文化庁のデータベースを見るとどうも違うようだ。いい加減な指定だったといえばそのとおりかもしれないが、これ以上深入りはしない。この指定は「本来の」自生にこだわったものではなく、自然状態で純林または混生林を形成しているという意味での指定であったようだ。「北限」ということばを入れたのが混乱を招いたのかもしれない。
実から椿油を搾り、材は硬く緻密なので建築、彫刻、器具材として、生木の灰は山灰とよばれ釉薬や紫染の媒染剤として用いられる。また、観賞用、防風林、防潮林として植栽される。江戸時代に空前のブームがあり、多くの園芸品種が作出され珍重された。一方で、盛りを過ぎるとぽとりと花ごと落ちるので、首が落ちるのに結び付け、屋敷内に植えることを嫌ったり病人の見舞いに持って行かないという地方も多い。

花が白色の品種をシロバナヤブツバキ(シロヤブツバキ)といい、ヤブツバキの自生地にまれに生えるもので各地で植栽されている。ヤクシマツバキ(リンゴツバキ)は果実が直径5-7cmと大型で果皮も1-1.3cmと厚い。
ユキツバキは、葉がやや広くて薄く、鋸歯は大きく網状脈が目立ち、葉柄は有毛で短い。花糸は鮮黄色で基部のみ合着し、花弁は平開する。東北地方~北陸地方の日本海側に生え、枝はよくしなり折れにくく、高さも1-2m。
ユキツバキと分布域が接近する地域では、ユキツバキとの雑種と考えられるユキバタツバキが見られ、両者の中間的な性質を示す。
花期:10-4月
分布:本・四・九・沖
撮影:2006.4.30 秋田県にかほ市
ヤブツバキ-2
北限地とされる夏泊半島のヤブツバキ。 2003.4.12 青森県平内町

ヤブツバキ-3
2020.1.7 神奈川県横須賀市

ヤブツバキ-4
花の盛りが過ぎると花ごと落ちる。 2016.3.6 神奈川県大磯町

ヤブツバキの果実
果実は厚い果皮があり、熟すと3裂する。 2016.6.10 神奈川県横須賀市

ヤブツバキの樹皮
樹皮は滑らか。 2018.2.28 神奈川県茅ヶ崎市

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