イチビ

イチビ(アオイ科)[莔麻]

名は、火縄の火口(ほくち)としたため「打火」から転じた、いち早く燃えるので「痛火」の意、糸黍(いときび)の意など諸説ある。葉がキリに似ているので別名キリアサ(桐麻)、葉が大きく、葉に飯を盛ったことからゴサイバ(五菜葉・御菜葉)という。
インド原産の1年生の帰化植物で、古い時代に繊維植物として中国経由で渡来した。現在野生化しているものは、それとはやや異なる部分があり、別ルートでアメリカからの輸入飼料に混入して渡来したものと考えられている。
根から分泌される成分にアレロパシー(他感作用)があって他の植物の生育を阻害しており、日本生態学会が定めた日本の侵略的外来種ワースト100に選定されている。

人家近くの荒れ地や畑、河原などに生え、茎は円柱形で直立して上部で分枝し、高さ1-1.5mになる。全体に束状の軟毛や腺毛が密生する。表皮は繊維質で強靱。
葉は長い柄があって互生し、長さ7-10cmの心円形で顕著な掌状脈が5-9個あり、基部は深い心形で先は急に狭まって鋭くとがる。縁に低い波状鋸歯がある。両面、特に若い葉の裏面には束生する短い軟毛が多く、ビロードのような手触り。
花は上部の葉腋につき、直径1.5-2cmで橙黄色。果柄は葉柄より短い。萼は5裂し基部に小苞はなく、背面に長毛が多い。花弁は広倒卵形で5個、基部で合着し先は平たくごく浅くぼむ。雄しべは多数あり、花糸の下半部は合着して袋となり、その基部は花弁と合着している。子房は球形で10-15個の花柱がある。
果実は直径1.5-2cmの半球形の分離果で、分果が輪状に並ぶ。古い時代に繊維植物として渡来した系統のものは茶色に熟し、現在野生化している系統のものは黒く熟す。分果は袋状で2裂し、それぞれの先端に2個の角状突起があり、開出する長毛がある。1個の分果に3-5個の種子を入れる。種子は腎形で毛があり、長径3.5mm。

昔は皮を剥いで旅行者のすね当て、畳表の縦糸、野良着や縄を作り、繊維屑は製紙原料に、繊維を採ったあとの殻は炭にして火口(ほくち)に用いた。古くなった繊維は刻んで壁土に混ぜ亀裂を防ぐのに用いた。これを「いちびずさ」といい、上等の壁に用いられる。
花期:7-9月
分布:帰化植物
撮影:1998.8.15 埼玉県東松山市
イチビの花
全体に軟毛や腺毛が密生する。花弁は橙黄色で5個。 2018.9.9 千葉県南房総市

イチビの果実
果実は半球形で分果が輪状に並び黒く熟す。古い時代に中国経由で入ってきた系統は茶色に熟す。 2018.9.9 千葉県南房総市


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