イヌブナ

イヌブナ(ブナ科)[犬橅・犬椈・犬山毛欅]

名は、材の質がブナより劣るために「イヌ」を冠したもの。ブナより樹皮が黒っぽいので別名クロブナという。イボブナ、タニガシ、イシブナ、アオブナ、モトスブナ、ワサブナ、ノジ、クロオモなど多くの地方名がある。

山地に生える雌雄同株の落葉高木で、幹は直立して高さ10-15m、大きなものは25m、直径70cmほどになる。日本固有種で岩手県以南の分布とされているが、青森県南部にも自生している。本州では太平洋側のやや乾燥したところに多く、ブナの多い日本海側の多雪山地にはほぼ分布がない。ブナより標高の低いところに生え、ブナのような大きな純林はつくらない。
樹皮は暗灰色でブナより黒っぽく、いぼ状の皮目が多数あり、ブナと違って地衣類はあまりつかない。幹の周りに多数のひこばえが出ることが多い。枝は暗紫色で長楕円形の皮目が多数あり、本年枝は初め淡褐色の長軟毛が密生する。
葉は互生し、長さ5-10cm、幅3-6cmの長楕円形で縁に低い波状の鋸歯があり、基部は左右非相称の広いくさび形~円形で先は鋭くとがる。側脈は10-17対で裏面に突き出る。質はやや薄く、若葉は両面とも長い軟毛があるが、表面はのちに無毛、裏面は脈上に長く白い絹毛が最後まで残る。葉柄は長さ0.4-1cm。托葉は長さ2-2.5cm、幅4-5mmの倒披針形で鈍頭、褐色で軟毛があり、開葉後まもなく落ちる。
花は葉の展開と同時に開花する。雄花序は長軟毛がある長さ2.5-4.5cmの柄があり、6-15個の雄花が幅1-1.3cmの頭状に集まって本年枝の基部の葉腋から数個下垂する。雌花序は頭状で、本年枝の上部の葉腋に上向きにつく。雄花の花被は長さ4.5-5mmの円錐形で淡褐色の長毛が密生し、先端は6裂して裂片は円頭。雄しべは12個で花糸は無毛、葯は花外に突き出る。雌花は直径約5mmの総苞の中に2個入っており、長さ5-7mm、花柱は3個、線形で反り返り有毛。花被片は6個で子房の上につき、線形で淡褐色の毛が密に生える。子房は3稜のある卵形。総苞は直径約4mm、長さ2-3mmで4裂し、裂片は楕円形で外側に短毛が密生する。
果実はその年の10月に熟し、長さ3-5cmの長い果柄に垂れ下がって熟し、長さ1-1.2cmの3稜形の堅果で裸出する。堅果の基部に長さ約5mmの小さな殻斗がある。殻斗の外面に卵状3角形の軟らかい刺がある。

ブナより材の質が劣るとされているが、ブナと同様に建築、土木、器具、船舶、マッチの軸木などに使われる。
ブナはよく似ているが、樹皮は滑らかで灰白色、ひこばえはほとんど出ない。葉はイヌブナより厚く側脈は7-11対と少ない。果実は短い果柄の先に上向きにつく。
花期:4-5月
分布:本・四・九
撮影:2023.3.22 東京都八王子市
イヌブナの葉
新葉は軟らかく、両面とも長い毛がある。 2018.4.10 東京都八王子市

イヌブナの樹皮
樹皮は暗灰褐色でいぼ状の皮目が目立つ。 2018.4.10 東京都八王子市


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